あなたの時計を衝撃から守る【耐震装置】の役割、しくみ、種類

  • 時計の耐震装置ってなに?
  • インカブロックって時計のパーツですか?
  • 時計って落としたら壊れますか?
  • テンプの軸受って他のものと違うのはどうして?

こんな疑問をお持ちの方に、現役時計修理師が、時計の耐震装置について、わかりやすく解説します。

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あなたの時計を衝撃から守る【耐震装置】の役割、しくみ、種類

最近の時計は、いわゆる「ウラスケ」と呼ばれる、ケースバッククリスタルを採用した時計が増えました。

これにより、時計の内部を見ることが出来、機械仕掛けのムーブメントを身近に感じられるようになりました。

そんな時計のムーブメントを観ていると、赤くて丸いパーツが一際目を引きます。

これが、軸受と言われる、歯車などの回転体を支えるものですね。

ちなみにこれは、人工ルビーで出来ているために赤く、回転による摩耗から、時計を守っています。

さらに観てみると、テンプの軸受は、軸受の頭にキャップが付いているようで、何やら他のものと違います。

これが、時計のムーブメントの中でも大事な役割を果たす、テンプの軸を守る耐震装置です。

今回はこの耐震装置について、わかりやすく解説していきます。

耐震装置の役割

今や当たり前となり、ほぼすべての機械式時計に装備されていると言っていい、耐震装置

機械式時計は精密機器であり、衝撃は大敵ではありますが、日常生活において、時計が簡単に壊れることは少なくなりました。

これは耐震装置による効果が大きく、耐震装置が開発される前は、時計が壊れる最大の原因は衝撃による天真折れでした。

なぜなら、天真の軸は大変細く、最も細いところは髪の毛の太さ程だからです。

そんな時計の使用環境において、時計の大事なパーツ、天真(テンプの軸)を衝撃から守るために開発されたのが耐震装置でした。

これにより、天真折れによる時計の故障は格段に減り、ますます時計が世間に普及してきました。

つまり、機械式時計における耐震装置とは、主に天真用に開発された軸受の事です。

今回は、いくつかある耐震装置の中で、もっとも多く採用されている、「インカブロック」を例に、その仕組みを解説していきます。

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ひと昔前は、現代のように人口ルビーを大量に生産することは難しく、貴重品でした。
ルビーを軸受等に使用するのは高級品の証であり、ゆえにムーブメントに「○〇 JEWELS」と使用されているルビーの数を刻印して、信頼性の証としていました。
現代でもその名残が残っていて、多くのムーブメントに石数が刻印されています。

耐震装置のしくみ

次項でも説明していますが、インカブロックは、スイスのインカブッロック社が製造する耐震装置で、5つのパーツから成り立っています。

①スプリング:受石、穴石を保持すると共に、衝撃を吸収する
②受石:時計の平姿勢において、天真の先端を受ける
③穴石:天真を支えると共に、油を保持する役割を担う
④受石座:穴石を保持しつつ、時計が衝撃を受けた際、適切に動き、衝撃吸収後に正規の位置に戻る
⑤ブッシュ:耐震装置全体を収め、ムーブメントの受けや、地板に耐震装置を固定する

▲ Incabloc SA

天真はトップを受石、サイドを穴石で支えられていますが、固定されておらず、スプリングによって、ブッシュに押さえつけられています。

通常は動くことはありませんが、強い衝撃を受けた時に、衝撃を受け流し、スプリングにより吸収し、吸収後、元の位置に戻されます。

他メーカーの耐震装置も概ね構造は同じです。

スプリングの形状による違いが見た目にも分かりやすいので、ムーブメントの見える時計をお持ちの方は、ぜひ自分の耐震装置がどの耐震装置か確かめてみてください。

それでは、耐震装置の主な種類を見ていきましょう。

耐震装置の種類

①インカブロック

名称インカブロック
メーカーIncabloc SA
発売1938年
特徴スイス時計を中心に世界で最も採用されている耐震装置。
80年以上の実績があり、信頼性抜群。

②キフショック

名称キフショック
メーカーKIF Parechoc SA
発売1944年
特徴インカブロックよりも厚みが抑えられ、再現性に優れることから、高級時計やドレスウォッチに採用される。

③パラフレックス

名称パラフレックス
メーカーRolex
発売2005年
特徴ロレックスが自社で設計・製造した耐震装置。
回転対象、表裏不別形状のバネが製造効率も向上させる。

④ダイヤショック

名称ダイヤショック
メーカーセイコー
発売非公開
特徴セイコーが開発・製造した耐震構造

⑤パラショック

名称パラショック
メーカーシチズン
発売1956年
特徴国産で初の耐震装置。
受石座と渦巻きばねで構成され、ユニークな渦巻き状のばねの特性により、高い復元性と、耐久性を誇る。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
時計の耐震装置について、理解いただけましたでしょうか。

さらに時計の魅力を感じていただける一助になれば、幸いです。

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