- 結局スプリングドライブってクォーツ時計でしょ?
- コーアクシャル?マスタークロノメーター?
- トゥールビヨンって何のため? 構造はどうなってるの?
- 普通の脱進器と何が違うの?
こんな疑問をお持ちの方のために、脱進器・調速機についてわかりやすく解説していきます。
フリースプラングってなに? テンプの役割とは? なんでテンプってそんなに種類があるの? テンプの種類や構造についてもっと知りたい。こんな疑問をお持ちの方のために、現役時計修理技術者が忖度なしにご紹介。テ[…]
コーアクシャル、スプリングドライブ、トゥールビヨン、脱進器・調速機をマルっと解説
脱進器・調速機とは
スプリングドライブ、コーアクシャル(co-axial)、トゥールビヨン(Tourbillon)はすべて、より正確な時間を刻むために、特殊な脱進器・調速機機構を持つもの達です。
これらの構造を説明するために、一般的な構造と比較すると、よりわかりやすいと思いますので、まずはもっともポピュラーな脱進器・調速機について解説します。
▲Seiko Watch Corporation
まずはイラストをご覧ください。
これが、機械式時計の基本構造(輪列)です。
一番左の香箱にはゼンマイが入っており、このゼンマイのほどける力が右の歯車に伝わっていきます。
左から5番目の歯車「がんぎ車」とその次の「アンクル」を合わせて脱進器と言います。
脱進器には、3つの役割があります。
①力をさらに右の てんぷ に伝達すること。
②それまで左から一方向の回転運動を、左右の往復運動に変換すること。
③ゼンマイが一気にほどけてしまわないように、力を受け止めること。
さらに「アンクル」とその次の「てんぷ」を合わせて、調速機と言います。
アンクル と てんぷ はお互いの相互関係になっていて、
アンクル は てんぷ に力を供給し、
てんぷ は アンクル に一定の時間間隔を与えて、時計の調速を行います。
てんぷは、振り子時計の振り子の役割をしているわけです。
脱進器、調速機がないと、主ぜんまいは、チョロ急のように一気にほどけてしまいます。
また、そのほどける回転は一定ではなく、最初が一番早く、最後はゆっくり止まります。
オルゴールは、ガバナーと呼ばれる風切車のようなもので、ゼンマイのほどける力をなるべく一定の回転で回るように制御していますが、
時計では、それをもっとゆっくり、正確に調速するために、このような調速機が用いられています。
さて、前置きが長くなりましたが、これを踏まえてスプリングドライブ、コーアクシャル、トゥールビヨンを順番に解説していきます。
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1. スプリングドライブ
①概要
機械式時計のゼンマイを動力源とし、クォーツ時計の水晶振動子とICにより調速する、機械式とクォーツのいいとこ取りをしたハイブリットなムーブメントです。
1977 年に諏訪精工舎 (当時) の技術者、赤羽好和氏によって考案され、1999年バーゼルフェアに出品されました。
着想から20年余り、開発の着手から足掛け18年もの歳月をかけて開発された、セイコー独自の画期的、革新的な時計ムーブメントです。
②構造
▲SEIKO HOLDINGS CORPORATION
スプリングドライブは、簡単に言うと、脱進器をなくし、調速器を「水晶振動子・コイル・IC」に置き替えたものです。
動力はクォーツのような電池ではなく、機械式と同じくゼンマイです。
よく「キネティック」も、クオーツと機械式時計を融合させたムーブメントと言われますが、キネティックは内部で充電できるとはいえ、あくまで電池を動力源としている点で大きく異なります。
水晶振動子の振動数は 32768Hz で、一般的な機械式時計の振動数、5~10振動(2.5~5Hz)と比べるとかなり高いことがわかります。
一般的に、調速機の振動数は高ければ高いほど正確と言われますので、水晶振動子を調速機に採用することで、より正確な時間を刻むことができます。
また、ローターの回転により発電し、ICと水晶振動子に必要な電力もまかなうことから、電池不要な独立した機構を作っています。
さらに、クォーツ時計・機械式時計、共に脱進器やローターにて一度回転を止めながら動いていますが、スプリングドライブでは、ローターの動きを止めることなく、回転数を制御している点で、クォーツ、機械式のどちらとも異なります。
動きを止めることがないので、機械式のような刻音がなく、あのような滑らかな秒針の動きを実現しているわけです。
まさに、機械式とクォーツのいいとこ取りをして、新たなムーブメントとして進化し続ける革新的ムーブメントですね。
③スペースウォーク
ここで、スプリングドライブ搭載の面白い時計をご紹介。
宇宙用腕時計「スペースウォーク」SPS005JC
2010年発売、世界で初めて宇宙で使用するために開発設計され、その高い性能が宇宙空間で実証された時計と同仕様の世界限定100本、記念限定モデル。
2008年に史上6人目の民間人として、国際宇宙ステーションに12日間滞在した、リチャード・ギャリオット氏のために作られ、実際に使用されました。
クロノグラフのプッシュボタンは、厚い手袋を着けた状態でもボタンを操作しやすいように、通常よりも大きなボタンをケース上部の押しやすい位置に配置。
また、宇宙空間の暗闇でも優れた視認性を発揮するために、発光塗料「ルミブライト」を採用。
通常よりも厚く塗られているため、通常の時計の3倍以上の明るさで発光するなど、随所に宇宙空間での使用に配慮がされています。
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2. コーアクシャル (co-axial)
①概要
1976年、英国時計職人、ジョージダニエルズ氏によって発明され、1980年に特許を取得した脱進器機構です。
その後、オメガにより採用され、1999 年に商品化されて以来、オメガの多くの時計に導入されてきました。
現在では、オメガの第三世代コーアクシャル脱進器、ジョージダニエルズ氏の愛弟子、ロジャー・W・スミス氏によるシングルホイールのコーアクシャル脱進器、はたまたセイコーのデュアルインパルス脱進器など、まだまだ進化を遂げており、次世代の脱進器として期待される脱進器構造の一つとなっています。
著者GEORGE DANIELS出版社Philip Wilson Pub Ltd; Updated版 (2011/6/15)発売日2011/6/15言語英語[…]
②構造
コーアクシャル、正式にはコーアクシャル・エスケープメント、日本語では同軸脱進器と言います。
その名の通り、特殊な脱進器を指しています。
何が同軸なのかというと、がんぎ車の2枚の特殊な歯車が同軸という意味のようです。
大きな特徴は下記の3つです。
①がんぎ車の特殊歯車
②ツメ石
③4番車の歯車
①がんぎ車の特殊歯車
一般的な脱進器では、がんぎ車の特殊歯車は1枚です。
しかしコーアクシャル脱進器では、がんぎ車の2枚の歯車が特殊形状になり、その歯車が同軸はもちろん、回転方向でも精密に位置決めされていなければなりません。
特殊歯車の製造はもちろんのこと、この位置を正確に組み立てる高度な技術が必要と言えます。
②ツメ石
もう一つの大きな特徴は、ツメ石です。
ツメ石とは、アンクルに見られるがんぎ車とかみ合う赤いツメを指すもので、通常の脱進器では、アンクルに2つのツメ石を持つのに対し、コーアクシャル脱進器では、アンクルに3つ、テンプに1つ、計4つのツメ石を持ちます。
このツメ石が、通常 がんぎ車 の大きい歯車のみと 1 往復(1 ヘルツ)で 2 回かみ合うのに対し、コーアクシャル脱進器では、特殊な、大・小歯車両方と 1 往復(1ヘルツ)で 4 回かみ合います。
通常の脱進器では、次のツメ石にかみ合いが移るとき、落下と呼ばれる衝撃が起こり、これが時計の刻音の一つになっているのですが、コーアクシャル脱進器では、この落下の衝撃を2から4に分割することにより、この衝撃を和らげると共に、ツメ石 と がんぎ車 との接触面積(長さ)を減らすことができます。
往復運動をより優しく、なめらかにしているイメージです。
ムーブメントのメンテナンス頻度や寿命が延びるといわれているのはこの点です。
③4番車の歯車
もう一点、細かいこと言うと、4番車の歯車もがんぎ車の小さい歯車とかみ合うように通常とは異なる形状をしています。
以上が、コーアクシャルの特徴ですが、この複雑な動作を一秒間に7回も行っているというのですから、驚きです。
③マスターコーアクシャル
耐磁性を高めた、コーアクシャル脱進器。
てんぷにシリコン(Si14)を使用することにより、耐磁性を高め、その耐磁性能は15,000ガウス以上。
なんと、MRIにも耐えるという、恐るべき高性能です。
またそれを証明するため、外部機関のMETASにて認定を受けたもののみがマスター クロノメーターの称号を手にできます。
現在この認定を受けているのは、オメガとチューダーのみとのこと。
耐磁性、耐久性、精度へのあくなき探求心が伺えます。
スイス連邦計量・認定局( Metrology and accreditation Switzerland)。
スイスのベルン近郊に本部を置く、司法警察省の一部であるスイスの国家計量機関で、「マスタークロノメーター」の試験、認定を行っています。
2024年3月価格改定アップデート済み。2024年4月新作アップデート済み。 オメガ欲しいけど、いくらくらいで買える? オメガってどんなブランド? スピードマスター?シーマスター? 月に行ったあのモデルってど[…]
3. トゥールビヨン (Tourbillon)
①概要
フランス人時計師、アブラアム・ルイ・ブレゲにより発明され、1801年に特許取得された、脱進器・調速機機構。
フランス語で「渦」を意味する言葉で、時計の姿勢差(時計の姿勢による歩度の差)を平均化することを目的に考案されました。
4大複雑機構の一つに数えられ、(3大、6大複雑機構にも)各所に精密なバランスが求められるため、高度な製造技術、組立技術が必要とされることから、数年前までは製作できる時計師は数人から十数人のみと言われていました。
②構造
簡単に言うと、脱進器・調速機をすべてまとめて、4番車に乗せることで、脱進器・調速機全体が回転し、時計の縦姿勢による姿勢差(時計の姿勢による歩度の差)を平均化するというもの。
細かく言うと、4番車(通常1分間で1回転)の歯車とカナを分離(中心軸は同じ)。
4番車の歯車を固定するとともに、調速機・脱進器をまとめて、「キャリッジ」や「ゲージ」と呼ばれるものに入れて、4番車カナに載せる。
固定した4番車歯車とかみ合うがんぎ車によりキャリッジ全体が、固定された4番車歯車の周りを回転するというもの。
一分間に1回転するトゥールビヨンが多いのはそのためです。
現在では、トゥールビヨンの一大ブームにより、多くの種類のトゥールビヨンが開発されました。
フライングトゥールビヨン、ジャイロトゥールビヨン、3Dトゥールビヨン、ダブルトゥールビヨン、そしてなんと4つのトゥールビヨンを持つものまであり、見るものを楽しませ、魅了してくれます。
時計の姿勢における歩度の差。
通常、最大で6姿勢(ダイヤル上、ダイヤル下、3時上、6時上、9時上、12時上)にて計測され、その誤差の許容範囲は、ブランド毎、ムーブメント毎に規定されている。
ちなみに、ダイヤル上とダイヤル下を平姿勢、3,6,9,12時上を縦姿勢と呼ぶ。※ブレゲが活躍した時代、時計と言えば懐中時計(ポケットウォッチ)でした。
時計は懐やポケットに入れられるため、特に縦姿勢が重視され、トゥールビヨンのような機構が発明されたのだと推察されます。
通常、時計の基本構造(輪列)で使われる歯車は増速輪列用の歯車で、歯車とカナが加締められており、一緒に回転する。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
どれも、時計の進化を見ることができる、画期的機構ですね。
時計の外から見えるもの、見えないもの、それぞれありますが、最先端技術の詰まった時計だと思うと、ただ着けているだけでも心躍ります。
ぜひ、次の一本にいかがですか。
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