【解説】ハイビート or ロービート?機械式時計の振動数

  • 時計の振動数って何?
  • ハイビートとロービートはどっちがいいの?
  • なんでハイビートだと精度が高いの?

こんな疑問をお持ちの方に、現役時計修理師が、わかりやすく解説します。

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【解説】ハイビート or ロービート?機械式時計の振動数

振動数とは?

時計の振動数とは、「単位時間内に時計のテンプが往復する回数」を表す数値の事です。

言い換えると、テンプ往復運動速さを示す値ということも出来ます。

機械式時計に耳を近づけると、「チッチッチッチッ」という音が聞こえます。

この音の「チッ」という一つの音が1振動です。

テンプ脱進器が分からない方は、まずこちらをご覧ください。

時計のスペック表で、「28800振動/時」、「8振動/秒」、「4 Hz」等と見かけますが、こちらはすべて同義です。

「28800振動/時」は1時間テンプが振動する回数。(片道で1)

「8振動/秒」は1秒間テンプが振動する回数。(片道で1)

「4 Hz」は1秒間テンプ往復する回数。(往復で1)

「28800振動/時」、「8振動/秒」、「4 Hz」はすべて同じ振動数で、現在最も主流の振動数です。

よって、これより高い振動数をハイビートと呼び、これより低い振動数をロービートと呼びます。

では、振動数はいくつがいいのでしょうか。

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高精度ならハイビート

一般的にハイビートとは、36,000振動 (またはこれよりも高い振動数) のことを言います。

メリットは高精度、デメリットは耐久性への懸念です。

では、なぜハイビート(振動数が高い)だと高精度なのでしょう。

それは、を想像するとわかりやすいです。ベイブレードでもいいです。

駒を投げる時、なるべく駒の回転が速くなるように投げてやろうと思いますよね。

それは駒の回転が速い方が、回転が安定して、外敵にも強いからです。

時計のテンプでも駒と同じことが言えます。

テンプ回転が速い方がテンプが安定し、外乱にも強く、つまりが精度が安定するわけです。

また懸念点とされるのが、耐久性です。

振動のたびに脱進器では、衝撃落下摩擦等が繰り返されていますが、仮に振動数が 1 Hz 高くなると、2振動/秒、7200振動/時増加して、一日では実に172,800振動も増えることになります。

よって耐久性の観点から、長らくハイビートは敬遠される傾向にあったのですが、現在では、技術の改良が進み、シリコン素材や、新たな合金が生まれ、耐久性も飛躍的に向上しました。

なので耐久性への懸念は年々薄らいでいますし、さらなるハイビートの時計を開発するメーカーも出てきています。

そんなことから精度に着目して、技術の粋を集めたハイビートの時計を選択するのも選択肢として面白いと言えます。

ハイビートと言えばこちら↓

①Grand Seiko「Evolution 9 Collection」Ref. SLGH005

▲ Seiko
リファレンスSLGH005
素材ステンレススチール
サイズ 横 40.0mm 縦 47.0mm 厚さ 11.7mm
防水性能日常生活用強化防水(10気圧)
ムーブメント9SA5  メカニカル 自動巻(手巻つき)
パワーリザーブ最大巻上時約80時間持続
特徴・機能ねじロック式りゅうず
参考価格1,210,000 円(税込)

②ZENITH 「CHRONOMASTER EL PRIMERO」 Ref. 03.2040.400/69.R576

▲ ZENITH
リファレンス03.2040.400/69.R576
素材ステンレススチール
サイズ38 mm
防水性能10 気圧防水
ムーブメント自動巻き  エル・プリメロ cal. 400
振動数36000 振動
パワーリザーブ50 時間
連結方式キャリングアーム方式
作動方式コラムホイール
特徴・機能オリジナル 1969 ケース
タキメータースケール
参考価格92.4万円
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アンティークはロービート

一般的にロービートとは、18.000振動 (21,600振動や25,200振動を含むこともある) のことを言います。

ロービートのメリットは耐久性、デメリットは精度への懸念です。

ロービートはその名の通り、低振動数ということですが、現在主流の28.800振動に対して、低いということで、アンティーク時計専門誌「Low BEAT」の雑誌名となっている事からも分かるように、アンティーク時計の代名詞としても使われます。

ひと昔前まで、腕時計・懐中時計の振動数は、18.000振動 や21,600振動が主流でした。

それは、素材製造精度、製造工程が現在ほど進んでいなかったため、耐久性が大きな問題点となっていたためです。

しかし現在では、素材製造誤差が格段に向上し、また高度な調整が可能となったため、ロービートの時計であっても、高い精度を誇る時計が多数存在しています。

たとえ、振動数で劣っていても、現在までの技術の積み重ねで高い精度を誇る、ゆるやかな時計の鼓動に耳を傾けるのも一興です。

振動数の測り方と計算法

振動数は、時計固有のスペックで、変えることが出来ませんが、時計の歩度調整(時計の進み遅れの調整)をする上で重要な数値です。

しかし、現在では例え時計の振動数を知らなくても、歩度を計測することが可能です。

時計修理技術者は歩度測定器(タイムグラファー)と呼ばれる測定器を用いて、これを測定します。

時計をマイク内蔵の測定台にセットすると、測定器が刻音と呼ばれる時計の音を正確に感知。

その音と音の間隔を測定することで、即座に計算し、時計の振動数歩度(一日の進み遅れ)、ビートエラーを自動的に表示してくれます。

また時計の歯車の数から、時計の振動数を計算することも可能です。

例えば、四番車の歯車の歯数が56 カナの歯数が7、

ガンギ車の歯車の歯数が15 カナ7 だとします。

四番車は一般的に1分で一回転ですから、

ガンギ車の、1分間の回転数は、56÷7=8 回転です。

よってガンギ車の歯は一分間に、アンクルを 8×15=120 枚 通過します。

1秒間では2枚ですから、4Hz、つまり8振動となるわけです。

その他の時計の振動数

振り子時計 : 1振動/秒

音叉時計 : 360振動/秒

クォーツ時計 : 32,768Hz

アトモス : 120振動/時間

原子時計 : 91億9263万1770回振動/秒 (セシウム133原子)

こちらの記事でアトモスについて紹介しています

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まとめ

いかがでしたでしょうか。
時計の振動数について、理解いただけましたでしょうか。

時計の事を知ると、さらに時計の魅力を感じていただけるのではないでしょうか。

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